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【オピニオン】科学技術の新たな体系化と、日本らしい大学改革の推進を 外務省 外務大臣科学技術顧問 参与 岸 輝雄 第15回

【オピニオン】科学技術の新たな体系化と、日本らしい大学改革の推進を 外務省 外務大臣科学技術顧問 参与 岸 輝雄 第15回

テクノロジストオピニオン第15回
外務省 外務大臣科学技術顧問 参与 岸 輝雄

構成/南山武志 撮影/内海明啓

科学技術の新たな体系化と、日本らしい大学改革の推進を

外務大臣科学技術顧問の仕事を始めて、あらためて感じたのが「科学技術の体系化・構造化」の必要性である。海外の人間に日本の技術の現状などを語る時、そこが明確にできていないことにもどかしさを覚えることがあるのだ。体系化が不十分なことは、個々の基盤技術が連動しにくいという実害も生んでいる。技術が高度化、複雑化し、応用領域が格段に広がっていることもその原因だろう。

科学技術には、ハードとソフトの大きな2つの流れがある。「アトムとデジタル」「リアルとバーチャル」といってもいい。要するに、科学技術の推進にはモノ、フィジカルの革新と、情報の寄与が不可欠で、両者の橋渡しをするのがIoTといえよう。これら2本線の中に、ライフサイエンス、環境・エネルギー、情報通信、あるいは防災を含めた社会基盤整備といった領域の位置づけを最適化していかねばならない。

“ハード”のベースに、私の専門とする材料があるのは、いうまでもない。産業革命の原動力となった内燃機関は、鉄なしにはできなかった。軽合金・アルミニウムの登場で、飛行機の時代になった。インターネットをはじめとする情報革命は、シリコンと光ファイバーという材料に支えられている。材料が技術革新を演出し、それは現在進行形なのである。

現在は、これらハードとソフトの融合の時代に推移している。内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の「革新的構造材料」プロジェクトで取り組んでいるのが、「マテリアルズインテグレーション」研究だ。ひと言でいえば、これまでの経験知や最先端の科学技術を融合し、材料の時間依存の性能を予測するシステムで、材料開発時の時間短縮やコスト削減、材料選択・プロセスの最適化への貢献などが期待されている。ここで大事になるのが、“材料”研究にいかに“情報”を取り込むか。今後はその発想なしに、革新的材料の発明などありえない。

このような視点の欠如もあり、日本の科学技術の若干の停滞が指摘されている。かつて材料科学分野における物質・材料研究機構(NIMS)のランキングは、世界第3位を誇っていたが、現在は10位以下である。日本の大学ランキングを見ても凋落傾向が顕著となっている。その結果として、研究者が集まらなくなることも今後の大きな課題であろう。

こうした我が国の低迷を打破するカギは、個性ある大学づくりにあると考えている。研究資金に関して、交付金を減らして競争的資金を増強しても、大学同士に不毛な戦いを強いて現場を疲弊させるだけの政策になっている。喜んでいるのは資金配分を行う行政官だけではないか。

そもそも日本人は真面目な農耕系民族だ。個人の力を技術に生かす、“匠”の技を持っている。大学でいえば、“家元制”ともいえる講座制に長く慣れ親しんできた。そうしたものを一切合切否定して、アメリカ流の競争原理を持ち込んだとしても、絶対にうまくはいかない。

例えば講座制は“家元”が去ってもデータが散逸しない。データ科学の時代に、得難いメリットではないか。また、日本固有の“武士道”も、公に奉仕する精神に通じ、SDGsの時代にはマッチする。日本の伝統も配慮した科学技術体制確立を一考すべきである。研究資金の増額が望めない状況を嘆いていても仕方ない。大きな飛躍のために推進すべきは、資金の配分、若手研究者の研究時間確保、大学院生の自立を含んだ、あくまでも「日本らしい大学改革」だと私は考える。

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Teruo Kishi
1969年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。
東京大学先端科学技術研究センター教授、センター長などを経て、2000年、東京大学名誉教授。15年より、外務大臣科学技術顧問(外務省参与)。ほか現職として、新構造材料技術研究組合理事長、国立研究開発法人物質・材料研究機構名誉顧問、内閣府政策参与科学技術政策・イノベーション担当など。
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