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【オピニオン】地方国立大学が進める新たな挑戦 新潟大学 理事・副学長 川端和重 第18回

【オピニオン】地方国立大学が進める新たな挑戦 新潟大学 理事・副学長 川端和重 第18回

テクノロジストオピニオン第18回
新潟大学
理事・副学長 川端和重

構成/南山武志 撮影/内海明啓

地方国立大学が進める新たな挑戦

大学にとって、産学連携は「古くて新しいテーマ」だ。それは、「ある研究者対企業の研究所」の時代から、「組織対組織」へ、さらには一つの商品や技術にとどまらず、より広いコラボレーションを志向していこうという「本格的な組織型の連携」へと、コンセプトを深化させてきた。さらにその先に見えているのが、地域を巻き込みながら社会産業構造自体を変えていくことを目指した「産学・地域連携」である。

前任地の北海道大学に「産学・地域協働推進機構」が設立されたのは、2015年4月のこと。大学が一つの組織体として、産業界や地方自治体と単なる連携を超え、責任を持って協働するというスタンスを明確にし、成果をより速く、より効率的に国民に還元することを最優先の目標に位置付けたのがポイントだ。機構の掲げるミッションは、①組織型産学協働の推進、②組織型地域協働の推進、③イノベーション人材の育成、④イノベーション資産の活用――の4つがある。それに基づいて、例えば文科省の「革新的イノベーション創出プログラム」の下で科学技術振興機構(JST)が実施する「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」に採択された「食と健康の達人拠点」プロジェクトなどを推進している。

昨年赴任した新潟大学では、さらに地域に踏み込んだプロジェクトをかたちにすべく、奔走中だ。新潟という土地は、ある意味北海道よりも地域性が明確で、「この地ならでは」の資源に恵まれている。私が現在ターゲットにしているテーマは大きく3つ。モノづくりの燕三条、全国トップの数を誇る日本酒の酒蔵、そして日本最大の離れ小島・佐渡である。

燕三条で目論んでいるのは、一言でいえば、エリアに集積する中小企業を一つのホールディングスにして、生産効率の向上、新製品開発の推進、さらには次世代地域リーダー育成などを進めることだ。個々には高い技術力を持ちながら、労働力、後継者不足といった悩みを抱える地域を、AIやRPA、IoTなどのテクノロジーも活用した「スマートシティ」の実現により、活性化させたいと考えている。

こうした取り組みは、例えば大企業が踏み込んで行ったりすると、地元にハレーションを起こすことになる。彼らをつなぎ、協働によるシナジー効果を生もうという試みを推進するうえで、国立大学はうってつけではないだろうか。どこでもそうなのだが、総合大学は地域との距離が遠く、地元からすれば“敷居の高い”存在だ。地域に根差し地域の将来をつくる活動に乗り出していく目的は、そうした壁を取り払い協働するうえでも意味のあることだと思うのだ。もちろん、「資金は、誰がどういうかたちで出すのか」といった課題もある。そうした点も含めて、地域は「動き出した新潟大学」が、どれほどの本気度で事に当たろうとしているのか見守っている段階だろう。一過性の「まちおこし」ではなく、永続性を持ったビジネスモデルをぜひとも構築したい。

燕三条が製造業をつなぐ「横型」ならば、酒蔵は「垂直統合」といっていい。日本酒の技術開発は、酒米、水、醸造と奥が深い。味もさることながら、健康という切り口もある。トキの里でもある佐渡島も、持続可能な開発という視点で眺めると、いろいろなことができる可能性を秘めている。

様々なハンデも負う地方拠点大学にとって、「産学・地域協働」は、それをチャンスに変えるキーワードでもある。新潟での取り組みを始めて、そのことを再認識している。

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Kazushige Kawabata
1985年、北海道大学大学院理学研究科物理学博士課程修了。博士(理学)。同年、出光興産株式会社・中央研究所入所。94年、北海道大学大学院理学研究科助教授。2002年、同大学大学院理学研究科生物科学専攻教授。08年、同大学大学院先端生命科学研究院研究院長。13年、同大学の理事・副学長。18年2月より現職。大学運営における研究戦略、産学・地域連携、人材育成に従事。
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