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【大学研究室Vol.40】多様なソーシャルビッグデータを活用し、複合的仮説生成の統一理論構築を目指す。ビッグデータ分野のさらなる進化に寄与

注目の大学研究室

首都大学東京 システムデザイン学部情報科学科 石川研究室
教授 博士(理学) 石川 博

仮説生成の体系化と一般化に挑む

社会には知的資源であるデータが溢れており、企業などにとって、それら膨大なデータの活用は命運を左右する死活問題だ。ビッグデータは、取得・蓄積するだけ、数字を眺めているだけでは用をなさず、分析が重要なことはいうまでもない。そこで求められているのは、データの処理速度ではなく、新たな価値を発見できるかどうかである。

ただ、ビッグデータ分析で扱うデータは、サイズから種類、構造まで多種多様だ。最適な分析結果や知見を得るためには、有効な〝仮説を生成〞して様々なアプローチで分析するというサイクルを回す必要があるが、ひとくちに「仮説を生成する」といっても容易ではなく、データ所有者の多くが仮説の生成に頭を悩ませている実状がある。

そこに風穴を開けようとしているのが、首都大学東京の石川博教授だ。石川教授は、「ビッグデータ応用時に共通する仮説生成のパターンを発見し、誰もが使える仮説生成の方法論を編み出したい」と、力を込める。

「ビッグデータは、ソーシャルメディア由来のソーシャルデータと実世界由来の実世界データの2つに分けられます。これらを関連させて分析することで新たな価値が発見でき、利用者の行動分析や予測、社会インフラの最適化などが実現できます。当研究室では、データと分析行為を合わせて『ソーシャルビッグデータ』と呼び、統合分析のための仮説生成法の創出と新たな知見の獲得に努めています」

複数のデータを統合的に分析するために、石川教授は「イシカワ・コンセプト」(コラム参照)という概念を提唱する。

「ソーシャルビッグデータには、位置・時間・意味情報のすべて、あるいは一部が含まれますが、ソーシャルデータは明解な意味を持ち得るものの、膨大に存在する実世界データの時間および位置情報は潜在的な意味しか持ちません。そのため、その分析可視化には大きな課題を抱えています。私たちは、コンセプトに基づいてソーシャルビッグデータに関する汎用的な理論とモデル化の仕組みの構築を目指し、『時間・空間・意味情報の分析可視化基盤』『ソーシャルデータからの情報抽出に不可欠な自然言語解析技術』『統合分析に必要な複数データソース間の関係性の発見技術』『ソーシャルデータの収集・処理も含めた並列可視化技術の研究・開発』をテーマに研究を進めています」

内外のアイデアを有機的に結合する

石川教授の試みは、端的にいえば、物理学で実現が期待されている「統一理論」をビッグデータの分野で実現しようというものだ。「地道に積み重ねていけば、いつかたどり着ける頂」と、石川教授は説明する。

「例えば、外国人観光客が日本国内の旅先で感じる大きな不満は、観光中のネット接続の不便さです。外国人がSNSに画像をアップする場所と、Twitterでの記事投稿が多い場所との差分に注目すると、どこに無料公衆無線LANスポットを設置すべきかがわかります。こうして複数のデータの統合分析を積み重ねていくことで、汎用的な仮説生成法の構築を実現したい。それができれば、防災や観光、モビリティ、科学などあらゆる分野で応用でき、より便利で効率的な社会の構築に資することができますし、かけ離れていた異なるセクタがデータを媒介にして結びつく知的社会が生まれると自負しています」

統一理論の実現が一筋縄ではいかないことは容易に想像され、前進するには、ある種のブレイクスルーが必要なのかもしれない。石川研究室では、社会人ドクター、企業出身研究者など外部の人員を積極的に受け入れ、研究室内外のアイデアの有機的な結合にも力を入れている。

「旅行会社やJAXAなどとの共同研究とは別に、企業をリタイアした研究者など、『研究を続けたい』と希望する人を歓迎し、お互いに切磋琢磨していることが当研究室の特色。彼らの知見が研究の推進力にもなっていますし、学生たちもよい刺激になっているようです。そうしたオープンな環境で研究を推進し、ビッグデータ分析の進化に貢献していきたいですね」

多くの社会人ドクター、そして企業出身研究者が活躍する石川研究室。「リタイアした研究者に活躍の場を与えたい」と石川教授

注目の研究

ビッグデータは「ソーシャルデータ」と「実世界データ」に分けられ、その多くがWebから入手でき、それらを「ソーシャルビッグデータ」と呼ぶ。複数のデータは、「時間」「空間」「意味」において同期させたうえで、お互いを補完したり強調したり、差分などを行うことによって、新たなデータ価値を創出することができるとする。その分析概念を「イシカワ・コンセプト」と名付けている

石川博
教授 博士(理学)

いしかわ・ひろし/1979年、東京大学理学部情報科学科卒業後、富士通研究所入社。92年、東京大学大学院理学研究科にて博士号取得。2000年、東京都立大学(現首都大学東京)大学院工学研究科教授。仏国ナント大学招聘教授、静岡大学情報学部情報学科教授などを経て、13年、首都大学東京システムデザイン学部教授。同大学ソーシャルビッグデータ研究センター長も兼務。

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