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【オピニオン】博士号取得者のキャリア支援が使命 株式会社クリーク・アンド・リバー社 プロフェッサー事業部 部長 倉本秀治 第16回

【オピニオン】博士号取得者のキャリア支援が使命 株式会社クリーク・アンド・リバー社 プロフェッサー事業部 部長 倉本秀治 第16回

テクノロジストオピニオン第16回
株式会社クリーク・アンド・リバー社
プロフェッサー事業部 部長 倉本秀治

構成/南山武志 撮影/内海明啓

博士号取得者のキャリア支援が使命

「末は博士か大臣か」――この言葉を聞かなくなって久しい。長い間、我が国では、博士号取得者が安定した職に就きづらい状況が続いている。いわゆる、“ポスドク問題”である。1996年に文部科学省が、科学技術基本法の中で、「ポストドクター等一万人支援計画」を打ち出したのが、この問題が起こった発端といわれている。そして文科省は、博士号取得者の期限付き雇用資金を、大学などの研究機関に配布した(1996年度から2000年度まで5年の時限措置)。

その後、文科省は、さらに数々の施策を実行し、徐々に博士号取得者は増加。そしてここ数年、毎年1万5000人前後の博士号取得者を輩出するに至っている。博士は増えたが、その受け皿は2000年以降、増えてはいないように思える。特に、新たな受け皿として期待されていた企業は、バブル経済崩壊により業績が一気に悪化。「失われた20年」といわれる期間、回復は思うようなスピードでは進まず、彼らを受け入れる体制づくりができる余裕がなかったのである。

このような経緯で生じたポスドク問題であるが、政策の内容や時代背景だけではなく、研究者側、企業側の双方に問題があるように感じている。研究者側は、せっかく博士課程まで進んだので、大学に残って研究者を目指したい。そこにこだわる人がやはり多い。一方、企業側は、一つの研究に特化してきた博士号取得者は、扱いづらく、年も取っている……などという理由で、採用を拒むことが少なくない。

ちなみに私は、日本の企業は“文系企業”と考えている。財閥系といわれる銀行や保険などの企業が中心となって、戦後のこの国の基盤を固めてきた。それら企業の文系職種が、キャリアの階段を上るためには、勤続年数と職種経験が重視される。また、転職する際の質問として、「どんな経験を?」や「転職経験、勤続年数は?」は必須だ。しかしながら“理系企業”では、その人が大学で培ってきた“真の能力”が重んじられるべきなのだ。

欧米の企業には、博士号を持っている経営者が多い。ちなみに、アイルランドでは18%がそうであるが、日本ではわずか4%。なぜその差が生まれたのか?答えは単純で、博士号を持った上司は、博士号を持った人材をどのように扱えばよいか理解しているからだ。そして、2000年代以降、大きなイノベーションを起こしているほとんどが欧米企業である。

もちろん、日本の企業も博士号取得者を採用している。しかし、経営層にも博士号取得者を増やしていかないと、彼らを優秀な戦力として育てるのは難しいのではないだろうか。彼らが大学で行ってきた研究分野とは異なる業務にあたらせたとしても、彼らには高度な論理的思考力、課題克服能力がある。そこをくみ取ったマネジメントができれば、きっと想像以上の働きをしてくれるはず。そういった意味で、企業には、博士号取得者は“大きな可能性”のある人材だと考え、彼らを採用し、様々な業務を任せてみてほしい。そして、彼らに経営スピリットを植え付けてほしい。そんな人材が日本の企業の中で増えていけば、必ずこの国の経済はますます上向いていくと思うのだ。

弊社クリーク・アンド・リバー社は、ポスドク問題の解消を目標とし、博士号取得者、理系の研究者、技術者の採用、キャリア支援を続けている。ぜひとも企業の皆さまにも私たちの思いをご理解いただき、「イノベーション大国・ニッポン」を立ち上げるためのご協力をいただければと願っている。

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Hideharu Kuramoto
1997年、九州工業大学大学院情報工学研究科情報科学専攻博士課程修了。博士(情報工学)。同年、文部省(当時)核融合科学研究所特別研究員。98年、科学技術振興事業団(当時)研究員。その後、株式会社日立エンジニアリング、株式会社トヨタテクニカルディベロップメント、株式会社サムスン日本研究所を経て、2015年、株式会社クリーク・アンド・リバー社入社。
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