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【オピニオン】科学技術振興の日本らしいデザインを  外務省 外務大臣科学技術顧問 参与 岸 輝雄 第14回

【オピニオン】科学技術振興の日本らしいデザインを  外務省 外務大臣科学技術顧問 参与 岸 輝雄 第14回

テクノロジストオピニオン第14回
外務省 外務大臣科学技術顧問 参与 岸 輝雄

構成/南山武志 撮影/内海明啓

科学技術振興の日本らしいデザインを

外務大臣科学技術顧問という立場にいると、当然、諸外国の技術顧問と交流の機会を持つことになる。研究を通じた友人と会えばほとんど専門の“材料”の話ばかりしているのだが、彼らとは科学技術全般の話題に花が咲く。どの国も、この分野の政策課題を抱えているから、ちょっとした連帯感のようなものが芽生えるのも、面白いところだ。

そんな彼らとの情報交換では、外から眺めているからこその視点に、はっとさせられることがある。「日本は、相変わらずアメリカを師と仰ぎ、アメリカ流のやり方で科学技術振興を図ろうとしているように見えるのだが、それでいいのですか」という指摘も、その一つである。例えば、イギリス人はこんなことを言う。「『スタンフォードがこうやって寄付を集めた』『ハーバードはいくら集めた』という話をいくら聞かされても、我々には意味がない。我が国には、そんな寄付文化がないからだ。日本も同じだろう。アメリカ人は高額の寄付をして自分の仲間を増やし、“ムラ”をつくろうとする。すでに“ムラ”を持つ日本が、どうしてそのスタイルを真似ようとするのだ?」

科学技術も、ある意味“文化の産物”だ。欧州の人たちとの間では、「アマゾンもグーグルも、多民族でダイバーシティのベースがあるアメリカだから発想できたビジネスだ」といった話にもなる。それもあって、ドイツは得意の製造業にIoTを導入して「インダストリー4.0」を推進するという独自の路線を構築し、存在感を高めた。だが、当のドイツ人は「このモデルが得意なのは、我々よりもむしろ日本ではないのか」と話したりもするのである。日本に対する彼らの大きな“疑問”が、研究の拠点である大学と公的研究所のあり方についてだ。例えば、イギリスは公的研究所をなくして、科学技術研究の機能を大学に集中させた。予算が少ない割には、分野によって日本よりもよほど高い成果を上げている。フランスは、国立の研究所の大改革を断行し、小規模の研究所はすべて大学と合流させた。他方、研究所メインでやってきたドイツは、ここにきて研究機関としての大学の機能を強化する方向に、大きく舵を切っている。各国とも、それぞれの国にふさわしいあり方を独自に模索し、着実に改革を進めてきているわけだ。

では、アメリカはどうかというと、伝統的に“巨大な大学”と、軍事のNASA(米航空宇宙局)、ライフサイエンスのNIH(米国立衛生研究所)のような“巨大な研究所”が並び立つスタイルを堅持している。我が国も現状を踏まえつつ、独自の日本らしい体制を考えるべきであろう。少なくとも、大学、研究機関の必要な統合・合体に積極的に取り組んでいかないと、“ずるずる落ち込んでいく日本の科学技術”ということになりそうだ。

さらに気になるのは“イノベーション”の扱いである。国策として、科学技術を用いてイノベーションを推進する方向性については大賛成だ。ただし、イノベーションを急ぎすぎて、社会実装のみが強調され、科学技術のピアレビューなどがおろそかになっては大変である。

また、科学(Science)、技術(Technology)、イノベーション(Innovation)をしっかり分離して考えることは、今各国が国境を越えて推進するSTI for SDGs(SDGs=国連の持続可能な目標)を進めるための世界の共通認識であろう。国益に基づく科学技術外交的な活動が、今後の科学技術政策に生かされることを期待したい。

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Teruo Kishi
1969年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。
東京大学先端科学技術研究センター教授、センター長などを経て、2000年、東京大学名誉教授。15年より、外務大臣科学技術顧問(外務省参与)。ほか現職として、新構造材料技術研究組合理事長、国立研究開発法人物質・材料研究機構名誉顧問、内閣府政策参与科学技術政策・イノベーション担当など。
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