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【オピニオン】固定化した東大を頂点とする大学格差を是正する“J2 COE構想”の提案  日本学術振興会 学術システム研究センター 顧問 黒木登志夫 第9回

【オピニオン】固定化した東大を頂点とする大学格差を是正する“J2 COE構想”の提案  日本学術振興会 学術システム研究センター 顧問 黒木登志夫 第9回

テクノロジストオピニオン第9回
日本学術振興会 学術システム研究センター 顧問  黒木 登志夫

構成/南山武志 撮影/内海明啓

固定化した東大を頂点とする大学格差を是正する“J2 COE構想”の提案

世界の大学ランキングで、我が国の大学が軒並み順位を下げるなど、その凋落が指摘されている。前回紹介したWPIのような世界のトップの研究があるにしても、全体としてみれば、掲載論文数が減少するなど、かつてに比べて現場の力が弱まっているのは事実だ。

どの世界にも格差はある。しかし、あまりに大きい格差は、健全ではない。私は、最近、大学間格差が“べき乗則”に従うことを発見した(『IDE現代の高等教育』誌:2017年4月号)。べき乗則とは、ある数をくり返し掛けること。その時の指数(exponent)を計算すれば、格差を定量的かつ客観的に分析できる。例えば、大学に対する科学研究費補助金の分布を調べてみよう。東大を頂点として、厳然たるヒエラルキーが存在する。東大を100とした時の分布を見ると、京大は東大の60%、次いで阪大、東北大が45~50%と続き、10位の広島大学は15%まで激減する。この順位を両対数グラフにプロットするときれいな直線が得られる。すなわち、べき乗則が成立する。同じような直線性は、格差のすべての指標でも見られる。

他国の大学間の格差は、日本ほど急峻ではない。アメリカとイギリスの10位はともに35%。日本の15%よりはるかに大きな予算が配分されている。20位になると、日・米・英の順に6%・25%・17%、40位では3%・18%・7%となる。べき乗則指数で定量的に比較すると、日本が-1.0前後であるのに対し、アメリカ、ドイツは-0.3、イギリスは-0.6程度である(マイナス値が大きいほど格差が大きい)。しかも、日本の場合、格差が大きいだけではなく、固定化している。1897年に我が国で2番目の帝国大学として誕生した京都大学は、創設時の帝国議会に提出された法案に「おおむね東京帝大の3分の2」の規模とすることが明記された。調べてみると驚くべきことに、教職員の数、発表論文数、科学研究費の金額などなど、120年後の現在でも測ったように東大の3分の2なのである。官僚国家日本の底力を見る思いがする。

格差解消には2つの方法がある。1つ目は大学への予算を増やすこと。現在の財政状況を考えると、財務当局が予算を増やしてくれるとは思えない。2つ目は、トップの大学の予算を削って中間の大学に再配分することである。しかし、トップ層の大学の予算を減らせば、我が国の研究は失速してしまうだろう。では、現実的な格差是正策はないものだろうか?私が文科省に提案しているのは、ヒエラルキーの中位以下の、プロサッカーでいえば“J2”クラスの大学に、特色ある研究拠点をつくろうという構想である。WPIを有するのが“J1”ならば、“J2”には、“J2 COE”をつくろうという考えである。

私には06年、岐阜大学に「金型創生技術研究センター」を設立した経験がある。日本の伝統産業でありながら中国への技術流出などもあって苦境にあるという話を聞き、工学部に隠れていた研究者を組織して“見える化”したのだ。そのとたん、技術者不足などに悩む関係企業が何億円もする機械を次々に寄付し、実習用の工場をつくってくれた。私の思い描く“J2構想”とは、そうした拠点が全国津々浦々にでき、そこに専門家やお金が集まる仕組みを構築することなのである。日本のサッカーがワールドカップの常連になれたのは、Jリーグが発足して、各地のチームが重層的に切磋琢磨する環境が生まれたからにほかならない。学ぶべきことが多いのではないかと思う。

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Toshio Kuroki
1960年、東北大学医学部卒業。インターンを経て、がん研究に取り組む。66年、博士(医学)。
東北大学助教授、ウィスコンシン大学ポスドク、WHO国際がん研究機関(仏・リヨン市)勤務を経て、東京大学教授(医科学研究所)。96年、昭和大学腫分子生物学研究所所長。2001年、岐阜大学学長。
08年、日本学術振興会学術システム研究センター副所長、相談役を経て現在顧問。
東京大学名誉教授、岐阜大学名誉教授。東京都出身。
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