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【オピニオン】地方国立大学が進める新たな挑戦 新潟大学 理事・副学長 川端和重 第19回

【オピニオン】地方国立大学が進める新たな挑戦 新潟大学 理事・副学長 川端和重 第19回

テクノロジストオピニオン第19回
新潟大学
理事・副学長 川端和重

構成/南山武志 撮影/内海明啓

迷わず、好きな道を信じて究めよう

「国からの運営費交付金が減らされ、大学経営が厳しさを募らせている」「学内に若手の行き場がなくなっている」。近年、そうした“大学の危機”が叫ばれるようになった。だが、誤解を恐れずに言えば、それはメディアの騒ぎ過ぎというもので、景気の動向に連動する産業界での若手採用に比べ、それほど大きな変化が大学で起こっているとは私には思えない。

雇用が交付金で行われ、それが減額されているのは事実である。しかし、今は様々な外部資金、競争的資金を活用することもできる。実際には、交付金の減少分を競争的資金などで補い、それを若手の雇用、育成に充当するという構造になりつつある。そのシステムがまだうまく回っていないところにネックはあるのだが、少なくとも、若手のポストが根こそぎなくなるような現実はないはずだ。

では、現在の大学の若手が置かれた状況に問題なしかといえば、もちろんそんなことはない。最も危惧すべきは、彼らがその個性を発揮し、伸ばせる環境が、ますます棄損されつつあることである。ひと口に若手研究者といっても、いろいろなタイプの人間がいる。助教になれば、大学のシステムを理解し、教育などに携わっていくことが求められる。そうやって、教育やマネジメントの力を蓄えながら、准教授に進んでいくのが“王道”ではある。一方で、自分の研究のみに没頭する研究者として“スーパーポスドク”などで「テンパって」生きていくという道もある。民間も含めた世界の研究所を渡り歩きながら研究力を発揮するのだ。

これからの大学には研究、教育、経営(URA等)といった職種が組織化されるようになる。若手はその中から、例えば「とにかく研究が好きだから、ポスドクになろう」というような選択のできることが重要なのである。

ところが、国はガイドラインなどで、「あなたたちはパーマネント職を目指しなさい」「P(I Principal investigator)こそ、目標です」などと、おせっかいなことを言い出した。本来、独創性を持ちながら国際的な舞台で職場を変えて様々な経験を積んで見識を広げていくのが、若手研究者というものだ。研究者の個性の多様性を無視した一面的な“指導”を行っていたら、彼らの選択の幅を狭め、結果的に人材の偏在を招くのは明らかである。“個性”は大学における人材育成にもある。東京大学や京都大学のような中核研究大学があれば、中堅、地方大学も、もちろん私立大学もある。それぞれ規模もやっていることも目指す方向も違う。北海道大学から新潟大学に移って、「大学にはこんなに地域性があるのだ」ということも、私は認識した。

ところが、ここでも国は、そうした差異にかかわりなく、評価などで縛りをかけ、同一のマネジメントを要求したりするのだ。それに乗り遅れた大学にプレッシャーをかけ、あまつさえ「統合してしまえ」というのは、大学が大切にする個性と多様性をなくす施策であり、本末転倒というしかない。特にこれからの時代は、教育研究の中身のみならず、運営の仕方や人材育成の方法などについても、大学が一層の“地域性をもとにした個性化”を推進し、競争力を身に付けていくことが求められるのではないか。そのような推進こそが国の使命だと、私は考える。

私は今“大学経営”にかかわっているが、それ自体が現在の自分の研究テーマだと思っている。このように、研究の中身、やりたいことは、年齢に従って変わるのである。若い人たちには、見えていることばかりに執着しないで、今からやってくる予想できないことに対して、ぜひ鷹揚な構えで、なおかつアグレッシブに取り組んでほしいと思う。

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Kazushige Kawabata
1985年、北海道大学大学院理学研究科物理学博士課程修了。博士(理学)。同年、出光興産株式会社・中央研究所入所。94年、北海道大学大学院理学研究科助教授。2002年、同大学大学院理学研究科生物科学専攻教授。08年、同大学大学院先端生命科学研究院研究院長。13年、同大学の理事・副学長。18年2月より新潟大学理事・副学長。大学運営における研究戦略、産学・地域連携、人材育成に従事。
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