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【研究部門最前線Vol.9】音楽の楽しみ方、出会い方をさらに心地よく。最先端のテクノロジーで未来の環境を探究

音楽の楽しみ方、出会い方をさらに心地よく。
最先端のテクノロジーで未来の環境を探究

株式会社レコチョク

エンジニアの数は約60名。2014年から毎年5~6名の新卒採用を進める。
「業務の傍らで、いかに自分のキャリアのことを考えるか、
何を学ぶべきか、という点はいつも教えているつもりです」(稲荷氏)

独自のレコメンドサービスにAIを

2001年創業の株式会社レコチョク。世界初の「着うた®」事業をスタートさせた同社は、国内音楽ダウンロードサービスにおける最大手に成長。スマホの台頭などを受け、現在は定額制ストリーミングサービスへ事業の主軸を移している。

それはまた、「好みのアーティストの音楽を指名買い」する文化から「あらゆるアーティストの音楽が聴き放題」という文化へ、音楽の楽しみ方が変遷していることを示してもいる。「キーになるのは楽曲のレコメンデーションです」と語るのは同社執行役員CTOの稲荷幹夫氏。
「知っている音楽を繰り返し聴くだけでは定額制聴き放題のメリットがありません」
つまりリスナーをいかに新しい音楽と出会わせるか、そのためのシステムをどう構築するか――音楽業界全体が抱えた喫緊のテーマだ。

同社はここでAIに注目した。レコメンデーションにおいて欠かせないのが「音楽メタ」と呼ばれる楽曲情報だ。これは歌詞や楽調、テンポなど、「音以外の情報」を指す。従来は、楽曲ごとの音楽メタを人の手で分類し、リスナーの音楽嗜好と突き合わせることでレコメンデーションにつなげてきた。

「楽曲は、年々増加し続けますし、すでに人間の分析だけでは間に合わない時代が到来しているのです」
では、こうした音楽分類を「AIによる自動生成」に任せたらどうなるか――答えはまだ明らかではない。「まずは歌詞を分析し、どんな物語なのか、似ている楽曲はどんなものかなどの類推から始めています」。リスナーの嗜好性は、同社が長年蓄積し続けてきた利用履歴などのビッグデータから類推することが可能だ。

「そもそもレコメンデーションには、何が正解かわからない、リスナーごとに正解が違うといったややこしい問題があります。ですが、こうしてAIによる音楽メタの自動生成と、ビッグデータを活用した音楽嗜好の類推という2つのフェーズに分けることで、初めて定額制配信時代の音楽レコメンデーションがかたちになるのではないかという仮説を置いているのです」

AIと音楽がクロス。他社にない仕事領域

現在は、そのようなレコメンデーション機能の試作を目指す段階にある。研究開発は、大学など各種研究機関と共同で進める方針だ。17年3月には同社の研究開発機関レコチョク・ラボが、電気通信大学の人工知能先端研究センター(AIX)への参画を発表。同大学の栗原研究室と音楽配信サービスにおけるAI活用について共同研究が進む。

「大学のほうに当社の楽曲データを提供して、どんな分類ができるか試している最中です。当社内では、フィールドテスト的にレコメンデーションの内容が合っているかどうかを評価したり。まだ成果として見せられる状態ではありませんが(笑)、試作しないと次のフェーズにも進めません。これができるのは1000万近くの楽曲データがある当社しかない。だから始めた、というところですね」

課題になるのは人材の確保だ。現在60名のエンジニアを抱える同社は、課題発見型のエンジニアの採用に注力してきた。だが、AIに関しては募集人材を絞り込んでいる。「AIのど真ん中を研究している方、博士課程の人が欲しい。なおかつ音楽に興味のある人というと本当に希少です」
その条件に適って採用されたエンジニアはまだ1人だけ。博士課程でAIの実装を研究しつつ、趣味で音楽活動をしている人材だという。

「音楽の世界で何か面白いことをやりたいエンジニアにとって、当社は働きやすい環境だと思いますよ。ITを使って、新しい音楽との出会い方はまだまだ変わっていく。AIはその手段として今後10年のカギを握るものでしょう。AI人材の目には当社がやろうとしていることはニッチに映るかもしれませんが、ここには膨大な楽曲データを持つ当社でしかできない仕事があるのです」

上/2017年3月、レコチョクは全システムをクラウド環境(AWS)に完全移行した。
写真は今年5月に稲荷氏が登壇した「AWS Summit Tokyo」基調講演の模様
下/社内の研究開発機関「レコチョク・ラボ」が、世界最大のクリエイティブ
見本市「SXSW2017」に共同出展。ヘッドマウントディスプレイを使わない
VR体験コンテンツ「8K:VRライド」で観客を沸かせた
上/様々なイベントでVR展示ブースを出展。
レコチョク・ラボが制作したVRコンテンツなどを公開している
下/同業他社や一般の方にも声をかけハッカソンや勉強会を開催。
また若手エンジニアには海外研修の機会も。「海外のトレンドや
最新技術にふれるためにも、できるだけ外に連れ出すようにしています」

執行役員 CTO
稲荷 幹夫

いなり・みきお/1992年、慶應義塾大学大学院理工学研究科計算機科学専攻修了後、アクセンチュア株式会社へ入社。その後、株式会社サイバードにて、iモードの立ち上げ当初からモバイルコンテンツに深くかかわる。同社CTOを経て、2012年に株式会社レコチョクへ入社。現在はCTOとして、AWS全面移行など最新技術を積極的に取り入れ、新しい音楽の届け方をシステムの側面からサポートしている。
株式会社レコチョク
設立/2001年7月
代表者/代表取締役社長 加藤裕一
従業員数/147名(2017年3月末現在)
所在地/東京都渋谷区渋谷2-16-1

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