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親和性が高いシミュレーターと強化学習。相互メリットによる高いポテンシャルが未来を拓く

親和性が高いシミュレーターと強化学習

強化学習はシミュレーターを劇的に高速化させ、適用範囲を広げることに貢献する一方で、シミュレーターを使ってデータを生成することで、強化学習のモデルを学習させたり検証させたりすることができます。その相互のメリットを活用すると、将来的にますます多くの分野での研究成果の社会実装が実現・進化することでしょう。

本記事では、シミュレーター×強化学習の可能性や相互活用するメリット、実装事例などを解説します。

シミュレーター×強化学習の可能性

シミュレーターと強化学習の化学反応によって、どのような可能性が広がるのでしょうか。

■シミュレーター・シミュレーションとは

シミュレーションとは、現実世界で実験することが難しい場合に、現実世界の問題をコンピュータ上に再現して模索を繰り返すことです。また、シミュレーターとは、その仮想的なモデルを作成して模擬的に実験するハードウェアやソフトウェアのことです。

シミュレーションを行うことで、実際のシステムを変更することなく、様々な分野で実際に起こり得る可能性を確認でき、それに対する対策もコンピューター上で検討することができます。実システムで試すと危険を伴うような場合のリスク回避にもなり、コストや時間、労力の削減も可能となります。

■シミュレーションを最適化する強化学習

シミュレーションでは、条件を変えた時のパフォーマンスをwhat if形式で分析できます。ただしこの方法では調べられる範囲に限りがあり、システムを最適化するには不十分です。シミュレーションでシステムを最適化するには、システムのパラメータだけではなく意思決定のルールを最適化する事も重要となります。意思決定のルールとは、渋滞を減らすための信号制御ルールや欠品を起こさないための最適な在庫管理ルールなどのことで、強化学習はこれらの意思決定ルールを最適化する手法のひとつです。

そもそも強化学習では、コンピューターが任意の環境において、目的として設定された報酬(スコア)を最大化するための行動を学習します。そのためシミュレーションであらかじめ最適化したい対象がある場合には、強化学習によるアプローチを行うことで適用範囲の広い最適化が可能となります。

本来正しい物理シミュレーションを行うためには長い計算時間がかかっていました。これを高速な強化学習モデルに置き換えることによって、計算時間を劇的に高速化することができるようになります。さらに、シミュレーターの計算結果が実験による計測データと乖離してしまうという課題も、シミュレーション結果の代わりに実験結果を学習させることで、その乖離を低減することも可能となります。

■シミュレーターは今後の強化学習で重要になる

一方でシミュレーターを使ってデータを生成することで、強化学習のモデルを学習させたり検証させたりすることができます。

これまで強化学習の分野では、データの網羅性が低いと学習効率が悪いので、実用化はデータの入手が容易な分野に限られていました。また、行動に対するレスポンスが悪い場合や、選択肢によっては現実世界で選択することが難しい場合もあり、実験が進まないことも多くありました。そこで現実を模したシミュレータを用いると、効率的に多くの試行を実践でき、シミュレータ上の状況を観測できるようになります。

シミュレーターによって強化学習も、大きなメリットを得ることができるのです。

シミュレーター×強化学習相互の利点

シミュレーターと強化学習それぞれのメリットを、もう少し詳しくみていきましょう。

1.シミュレーターが強化学習を助ける

■網羅的なデータを入手可能に

現実を模した仮想モデルを作成できるシミュレーターにより、網羅的なデータを入手できるようになります。これにより、例えば高速道路上で人が走っている動画など現実では手に入れられないデータを、強化学習側は利用できるようになります。世の中に存在していない材料を使った場合の反応なども確認できるので、創薬や新素材開発などあらゆる分野での応用も期待できます。

■ラベルを作るのが難しい場合もラベル付けが可能

例えば、群衆の中の「個」の検出やトラッキング、画像密対応など、人によるラベル付けが難しい場合でも、シミュレーターであれば、これらのラベルを無料で入手できます。

■最適化、強化学習に必要なWhatーIf分析が可能

シミュレーションでは、シミュレーションの最適化に必要なwhat if形式の分析が可能で、これが強化学習でも重要なファクターとなります。

2.強化学習がシミュレーターを助ける

■シミュレーションの高速化

シミュレーションの改善には様々な方法がありますが、強化学習は特にシミュレーションの計算時間を大幅に短縮した点で大きな貢献を果たしています。これにより、シミュレーションの効率化が進みました。

■データからシミュレーションを学習する

例えばCGを使ったアセットを使う際に、データからシミュレーションに必要なアセットやモデルを作れるようになります。また、数枚の写真から三次元復元や、自動生成も可能となります。

■データ同化、パラメータ推定を助ける

強化学習により、データの同化やシミュレーションのパラメータを観測データから帰納的に推定することが容易となり、今後はますますシミュレーターの適用が広がると考えられます。

シミュレーター×強化学習の応用事例

最後に、シミュレーターと強化学習の相乗効果が活かされている実装例を紹介します。

■自動運転

自動運転制御では、限定された走行シーンにおいても人力での実装が困難なことや、膨大な時間と人員を要するユースケースが多くあります。特に都市部では、信号の状態検知や、横断歩道を渡る歩行者、周りを走る自動車・バイク等との衝突を回避する必要があるので、複雑なタスクとなります。そこで強化学習を用いてシミュレーター上で学習を行い、制御アルゴリズムを導く手法が用いられています。

■創薬

シミュレーターでは、現実世界に存在しない素材や原料などをシミュレーションして試行ができるので、創薬や新素材・新商品開発などの分野で効果を発揮できます。強化学習との連携により実験の高速化・精緻化ができることから、この分野の飛躍的な発展も期待できるでしょう。

■信号処理・人流シミュレーション

駅やショッピングモール、イベント会場近くの歩道など、人が多く集まる場所では、各人がそれぞれの目的地に向かう事で人の滞留が起こります。この人の滞留・流れをシミュレーションで予測できれば、信号やサインシステム、警備員の適切な配置で事前に事故の発生を防ぐことができます。このような人流シミュレーションによる対策でも、シミュレーター×強化学習が応用されています。

■生産ライン設計の最適化

生産ラインを設計するには、生産量だけではなく、材料や作業員、インフラ、作業場所など、相互の最適化と効率化が必要となります。シミュレーションは、生産ラインのボトルネックを迅速に発見して改善策を立てるのに有用で、強化学習を付加することでより最適なシステムや、欠品を減らす在庫管理ルールの構築に役立っています。

■振動制御への適用

振動制御の実験も多く行われており、様々な地震波に対する建物の挙動をシミュレーターを用いて再現し、その制御方法を強化学習で学習することで、今までにない優れた制振効果を得ることができています。

まとめ

シミュレーターと強化学習は相互の利点を活かすことで、さまざまな分野の研究開発や社会実装を劇的に進化させることができます。強化学習によってシミュレーターの課題が改善されより高速・高精度になり、強化学習はシミュレーターによって、現実では確認できない実験が可能となります。これにより、社会はスピーディに変化していくと言っても過言ではないでしょう。

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