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【オピニオン】世界市場の環境変化を注視せよ! TIMコンサルティング 代表 古田健二 第20回

【オピニオン】世界市場の環境変化を注視せよ! TIMコンサルティング 代表 古田健二 第20回

テクノロジストオピニオン第20回
TIMコンサルティング
代表 古田健二

構成/南山武志 撮影/内海明啓

世界市場の環境変化を注視せよ!

日本企業の競争力低下が指摘されて久しい。私はその原因の一つが、製造業を中心に、旧態依然の“研究開発マネジメント”志向から脱却できないところにあると考えている。

日本に限らず、20世紀の企業は自前で優れた技術を開発し、それをベースにモノやサービスをかたちにしてきた。自分たちのビジネスを実現するためには、そのための技術を自分たちでつくり出す必要があったのだから、それは当たり前といってもいい。その時代の勝者は、そういう意味での“研究開発力”をも備えた、総合力に優れた企業ということになる。例えばIBMは、半導体メモリーやプロセッサからソフトウェア、全体のフレームまで垂直統合で自ら構築できたからこそ、“巨人”たりえた。

しかし、21世紀に入り、外部環境は大きく変わった。メモリーもプロセッサもソフトウェアも、「うちなら、もっといいものを安価で提供できますよ」という企業や研究機関が、次々に立ち現れてきたのである。そうなると、何でもかんでも自分たちでやらずとも、世界でトップレベルの技術が手に入る。勝負のステージは、「どこにどんな技術があって、それをどのように活用していくのか」、すなわち“テクノロジーマネジメント”に変わった。

特にリーマンショック以降、欧米の先進企業は、その方向に大きく舵を切っている。米国の大手消費財メーカー、P&Gの開発部門の人間が、こんなことを話していたのは印象的だった。同社の開発部隊には、全世界で1000人ほどのPh.D.がおり、決して技術力が低いわけでも、それを疎かにしているわけでもない。では、彼らが求めるのが何かというと、“スピード”である。「我々にアイデアはある。だが、世界にはもっといいアイデアを、早く実現できる人間がいるかもしれない」というわけだ。事実、同社はホームページで「今こんな開発をしようとしている。いい技術があったら応募してもらいたい」と呼びかける。自社の研究開発テーマを堂々とアップしているのだが、彼らの考える“オープンイノベーション”とは、そういうレベルのものなのである。

翻って、日本企業はどうか。残念ながら、いまだに“自社技術”、あるいは時々官が音頭を取る“オールジャパンの力”といった呪縛にとらわれ、そうした欧米の趨勢からは取り残されてしまった。“用途開発”という用語が生き延びているのは、象徴的だ。技術開発は、市場の“困り事”を解決するためになされて、初めて価値を生む。使い道の不明な開発に予算を付けて、どうするのか。自社技術の開発などそっちのけで、オープンイノベーションの果実をむさぼり、大きく成長した中国企業との競争に疲弊する日本企業の姿は、皮肉としか言いようがない。

とはいえ、彼らもようやく自らの置かれた環境に気づき始めた、というのが私の認識だ。かつての単なる“輸出立国”とは性格の異なる、真のグローバライゼーションの渦中に否応なしに置かれることで、世界が“テクノロジーマネジメント”志向に転換していることを、身をもって知ることになったのである。日本企業の研究開発も、さらに市場重視に、“オープンイノベーション”の導入へと、転換を始めている。

大学内の進路が狭められていることもあって、“ポスドク”も含め、博士取得後に民間企業に進もうという人材も増えている。そういう人たちは、こうした世界レベルのイノベーションをめぐる環境変化にも、敏感であってほしいと思う。

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Kenji Furuta
1973年、東京工業大学大学院修士課程修了後、日立製作所入社。80年、スタンフォード大学大学院にてDegree of Engineer取得。その後、アーサー・D・リトル、SRIコンサルティング代表取締役などを経て、2000年、フュージョンアンドイノベーションを設立、代表取締役。03年、東京工業大学21世紀COEプログラム客員教授、17年度から18年度までイノベーション人材養成機構特任教授。現在はTIMコンサルティング代表として活動。代表的著書に『第5世代のテクノロジーマネジメント』(中央経済社)。
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