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【大学研究室Vol.11】人工知能は未来をどう変えるのか?

注目の大学研究室

電気通信大学大学院 情報理工学研究科情報学専攻
栗原研究室

目指すゴールは先回りして動くAI

数ある研究分野の中で、今、最も熱い視線が注がれ、世界中で激しい開発競争が繰り広げられている分野の一つが「人工知能(AI)」である。目下、日本のAI研究は欧米勢の後塵を拝しているものの、その遅れを取り戻すべく、日夜、研究開発に取り組んでいる第一人者といわれる一人が、電気通信大学大学院の栗原聡教授だ。

「ひとくちに〝AI〞といっても分野は多岐にわたりますが、当研究室では、主に〝群知能〞を研究することで、汎用型AIの実現を目指しています」

現在のAIは、人間が苦手にしている分野で力を発揮するという特徴がある。例えば、膨大な情報を処理して最適解を見つける表計算や将棋、囲碁といった特定の用途に使われるAIがその典型だ。一方で、「人間が得意な分野をAIは苦手にしているため、その分野の研究はあまり進展していない」と栗原氏は言い、「そこに活路を見いだしたい」と力をこめる。

「AI開発に年間1兆円以上も投資するグーグル社と同じ土俵で勝負しても勝ち目は薄く、違った角度からのアプローチが必要です。もし『これがなければ完全なAIは完成しない』といえる要素を発見できれば、日本も存在感を示すことができるはずです」

栗原氏が説明する〝完全なAI〞とは〝人間に限りなく近いAI〞だ。
「当研究室では、場の空気を読んだり、人の要求を理解して先読み行動ができたりするような、人間らしい自律的な振る舞いができるフレンドリーなAIの開発を目指しています。実ロボットやCGなど、形態は様々考えられますが、高齢化が進展していく日本ではロボットのニーズが高まることは必然ですから、介護の分野などで人と協調したり、協働したりするAIをつくることが目標です」

人間が当たり前にできることが、逆にAIにとっては難しい。よって、AIが多少人間らしく行動できるようになっても、人はなかなか評価してくれない……そんな風潮がある。

「場の空気を読んで行動する、他人とスムーズに会話する。これらのことは、〝人間ならできて当然〞ですよね。だからこそ、開発の重要性や難易度の高さが理解されません。その重要性をどうアピールしていくかが、開発を推進していくうえでの一つの課題ですね」

人もAIも〝自律性〞が重要

栗原氏が目指している人間と共生できる汎用型AIの実現には、〝群知能〞の解明がカギを握るようだ。

「蟻や蜂は賢くないものの、集団では人間並みの仕事を成し遂げます。それが群知能と呼ばれるもので、人の脳も似た仕組みになっており、神経細胞が寄り集まってつながることで話したり考えたり、予測に基づいて行動したりという高い知性を創発するシステムを実現しています。こうしたネットワークに基づく複雑なシステム、すなわち群知能を解明してAI開発に生かすことで、〝完全なAI〞の実現に近づけるのではないかと」

群知能のような複雑なシステムの特徴は、多数のピースが存在し、大量に集まって自律的に行動する点にある。例えば、無数の神経細胞がつながる脳と、人と人、車と車がつながる社会システムに共通点があることに着目。栗原氏の研究室では、車や信号機にAIを搭載してネットワークでつなぎ、混雑状況によって個々の信号機が点灯するタイミングを自律的に制御する技術などを研究し、それを利用した新しい知的交通システムなどを提案している。昨今のAIブームも手伝い、栗原研究室には企業などからの共同プロジェクトの依頼が殺到しており、「学生は常に複数のプロジェクトを抱え、とても忙しい状態です」と栗原氏は目を細める。

「卒業後はシステム開発などに携わる学生が多いのですが、どんな進路を選ぶにしろ人的ネットワークを意識してほしい。人は人脈で成長していけますから。自らどんどん動いて様々な場へ顔を出し、ネットワークとそこから得られる知見を養えば、いつか必ず花開きます。未来に求められるキーワードは、人もAIも〝自律性〞だと思います」

栗原氏が取り組むテーマは群知能に限らず、ソーシャルコンピューティング、次世代高度道路交通システム、マルチエージェントシステムなど多岐にわたる。「SFなどで描かれる“怖いAI”ではなく“、フレンドリーなAI”を目指し、人とAIが共に進化できる社会を実現したい」(栗原氏)

注目の研究

写真左/栗原研究室が開発した、人と協調するデスクトップシステムの「AIDE」。モニターに取り付けたカメラが人の行動パターンを学習し、次の行動を予測して、必要なサポートを提供する。例えば、人がポストイットを使用する前兆動作を示すと、それに反応してアームがポストイットを掴んで手渡すなどの作業が可能だという。“完全なAI”には程遠いものの、「できることから少しずつ積み重ねていくことが大事」と栗原氏
写真右/ICTやデータマイニングなどのツールを駆使して開発に取り組んでいる知的交通システムのデモ画面。車や信号機にAIを搭載してネットワークでつなぎ、混雑状況に応じて個々の信号機が赤、青、黄色に点灯するタイミングを自律的に制御する仕組みで、導入が実現すれば、交通渋滞や事故を未然に回避できるという

栗原 聡
教授 博士(工学)

くりはら・さとし/1965年、横浜市生まれ。92年、慶應義塾大学大学院理工学研究科計算機科学専攻修了。NTT基礎研究所研究主任、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科専任講師、大阪大学大学院情報科学研究科准教授などを経て、2013年より現職。ドワンゴ人工知能研究所客員研究員、人工知能先端研究センター・センター長。

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