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【オピニオン】本気で“大学改革”を推し進めなければ、日本の優秀な研究者は枯渇していく 日本学術振興会 学術システム研究センター 顧問 黒木登志夫 第7回

【オピニオン】本気で“大学改革”を推し進めなければ、日本の優秀な研究者は枯渇していく 日本学術振興会 学術システム研究センター 顧問 黒木登志夫 第7回

テクノロジストオピニオン第7回
日本学術振興会 学術システム研究センター 顧問  黒木 登志夫

構成/南山武志 撮影/内海明啓

本気で“大学改革”を推し進めなければ、日本の優秀な研究者は枯渇していく

 東京大学医科学研究所などで研究生活を送っていた私が、縁もゆかりもない岐阜大学の学長になったのは、2001年のことである。所長などのアドミニストレーションの経験がない私が、いきなり7500人近い学生が学ぶ国立大学のトップになってしまったのだ。だが、振り返れば、“未経験”だったのがよかったのかもしれない。新鮮な目で見れば、大学には、変えなければならないシステム、変わらなければならない人たちがたくさんいた。文部科学省から派遣されてきた事務官僚が力をふるい、教員も職員も萎縮していた。次々に改革案を出した私は、組合から「思いつき学長」とからかわれた。しかし、私は「アイデアの豊富な学長である」と反論し、改革を進めていった。今では当たり前のように全国の大学に取り入れられている“岐阜発の制度”がいくつもある。一つだけ例を挙げておこう。

 地元には、岐阜市立の岐阜薬科大学がある。実は岐阜薬大と我々岐阜大は、いわば相思相愛の仲だった。できたら合併したいと思っていた。その頃、全国の薬科大学は、6年制教育への移行に伴い、病院実習が必修になった。大学病院のある岐阜大の隣に来て、渡り廊下で連結できたら、最良の教育環境を提供できる、というのが薬科大のメリット。他方、薬学部を持たない岐阜大にとっても100%ウエルカムである。ちょうど耐震性の問題から校舎の立て直しを迫られていた岐阜薬大を、岐阜大病院の駐車場に移転できないかという話になった。

 ところが、前例のないこの試みに、文科省は“NO”を突きつけた。あげく財務省まで乗り出してきて、ストップをかける。「お前たちは、国民の税金で買った土地を、別の用途で使おうというのか」というのが、その理屈である。“正論”なだけに、突き崩すのは容易ではない。何か突破口はないものかと調べていくうちに、大学の法人化に当たって文科省が出した“Q&A”に、その答えが見つかった。「大学の業務の範囲内ならば、国から出資を受けた土地や建物の使用を許可し、対価を得てもいい」旨の“アンサー”が記されていたのである。これを論拠に話し合いを続けた結果、我々の提案はめでたく受け入れられた。

 この事例は、後に文科省の政策にフィードバックされることとなった。国、公、私立という設置形態を越えた連携が、大学政策の柱の一つに位置付けられたのである。その促進に向けて、同省による「戦略的大学連携プログラム」という補助金も創設されている。

 これらの例もそうだが、“象牙の塔”の旧弊を廃し、新たな時代にふさわしい大学にリニューアルを図るうえで、法人化の果たした役割は大きい。しかし、残念なことに、法人化の理念だったはずの“大学改革”は、いつの間にか“財政緊縮化の手段”に置き換えられてしまった。行き過ぎた競争原理主義、市場主義のプレッシャーにより、高等教育の場から自由で独創的な学問を行う資金も環境も奪われつつある。このままでは日本の学問は衰退し、ひいては国の将来が危うくなるだろう。どうしたら改革の原点に立ち戻れるのか、真剣に議論すべき時だと思う。

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Toshio Kuroki
1960年、東北大学医学部卒業。インターンを経て、がん研究に取り組む。66年、博士(医学)。
東北大学助教授、ウィスコンシン大学ポスドク、WHO国際がん研究機関(仏・リヨン市)勤務を経て、東京大学教授(医科学研究所)。96年、昭和大学腫分子生物学研究所所長。2001年、岐阜大学学長。
08年、日本学術振興会学術システム研究センター副所長、相談役を経て現在顧問。
東京大学名誉教授、岐阜大学名誉教授。東京都出身。
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