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【大学研究室Vol.14】IoTのテクノロジーを駆使しながら、参入が少ない分野の情報を収集・解析。 誰かの役に立つ研究を継続していきたい

注目の大学研究室

神奈川工科大学 情報学部 情報工学科 大塚研究室
准教授 博士(工学) 大塚真吾

省コスト化で農家にIoTの恩恵を

 IoTによる農業支援が進む一方、個人経営の農家が導入するにはコスト高。この問題にアプローチしているのが、神奈川工科大学の大塚真吾准教授である。例えば、熟練者の感覚頼みだった作業にセンサーを導入、適正な生育環境をデータ化し、高品質な作物収穫につなげる。

こうして作物栽培の経験則を〝見える化〞できれば新規就農者の参入ハードルも下がるだろう。現在、大塚氏のシステムは島根県海士町のみかん畑や静岡県の茶畑などで稼働中だ。収集した生育データはサーバに転送され、統計データとしてまとめられている。モバイルで随時チェック可能な状態に置かれる。

そもそも大塚氏の関心は「ログデータ」にある。テキストの圧縮と検索の研究で博士号を取得、東京大学生産技術研究所では現国立情報学研究所長の喜連川優教授に師事し、Webのアクセスログ解析に取り組んだ。「研究は特殊なデータを持っている人が強い。現在多くのデータが一般公開されていますが、それを使ってもほかの研究者との競争となります。それよりは、これまで誰も取れなかったデータを独自に取るほうが勝率は高いし、面白いと思うのです」

農業とIoTというテーマにかかわり始めたのは神奈川工科大学に移った2010年頃から。小田原のみかん農家だった叔父の助けになればと考えたのがきっかけだ。収穫したみかんを追熟する納屋の上にソーラーパネルを起き、風量や雨量などを測るセンサーを取り付けた。「既存のシステムが高価で、30万円もしたのです。農業とIoTは確かに注目されていますが、大企業が提供するシステムはどうしてもコストがかさみ、普通の農家には手を出せないのが現状。しかし、私が自作したシステムならサイズも小さく1万〜3万円程度で済みます。100均で買えるようなパーツで組み上げていますからね」

こうした研究はいずれ農家の収益増にも貢献できるかもしれない。農家が手売りすると1㎏350円ほどのみかんもJAに卸すと5〜7割程度、ジュース用だと数十円程度まで値が下がることも。より高品質な果物を生産する仕組みづくりが急務だ。「例えば、みかんをよく買いにくる高齢の方は今人気の甘いみかんより、昔ながらの酸っぱいみかんを好んでいます。ログを取っていけば、そういうみかんが育つ環境もわかるはず」

海士町のみかん畑でシステム稼働中

小田原のみかん畑での取り組みを学会で発表すると、知人を介して島根県海士町から声がかかった。海士町は地域資源を活用した町おこしの先進地域として知られる。平成25年度から、かつて盛んだったみかんづくりを復活させる「崎みかん再生プロジェクト」が発足。これを支援するため、みかん畑の気温や湿度、土壌の状況などを自動的に収集するシステムを大塚氏が提案したのである。ログデータを蓄積し、果実の出来不出来との因果関係を調べるなどして、みかん栽培の効率化に生かしていく計画だ。

「海に近いため塩害も台風の被害もあって、しばしばシステムが止まってしまう。また物理的に距離が遠く、頻繁に見に行けないのが難しいところです」

昨年からは神奈川大学と一緒に、神奈川県南足柄市の茶畑にセンサーを設置した。気温や照度、地中の温度などから茶畑の天敵である霜を予知し、生産者のスマホにアラートを飛ばす。

今後の課題は、システムの小型化と省電力化。また畑単位ではなく木一本ずつにセンサーを設置し、より詳細なデータを収集するシステム構築だという。偶然出合った「農業とIoT」というテーマだが、IoTの恩恵を現場の生産者に届ける研究は、しばらく続きそうだ。もっとも大塚氏のキャリアを貫くデータへの関心はそのまま。次なる研究テーマも模索中である。

「自分がワクワクするような研究をしたい。これは学生にも伝えていることです。私は学会活動も熱心ですし、人と話すのが好き。そうやってフラフラしているうちにワクワクできるテーマに当たるかもしれない。私は天才ではないので(笑)、一つの道を突き詰めるより、こういう寄り道が向いてるんです」

2008年に神奈川工科大学キャンパス内にオープンした創作活動専用の施設「KAIT工房」。2000㎡もの空間内で3Dプリンタなど各種のものづくり設備を提供、専門スタッフによる助言も受けられる

注目の研究

上/島根県海士町のみかん畑。気温や湿度、雨量、風向き、土壌の温度などを収集するシステムが稼働している。かつて海士町の名産だったみかんを再生するプロジェクトの一環。甲南大学、島根大学との共同研究でもある
下/神奈川県南足柄市の茶畑。センサー、車のバッテリー、ソーラーパネル、モバイルWifiルーターなどからなるシステムを設置している

大塚 真吾
准教授 博士(工学)

おおつか・しんご/1973年、川崎市生まれ。96年、千葉工業大学工学部情報工学科卒業。2002年、同大学大学院工学研究科情報工学博士後期課程修了。同年、東京大学生産技術研究所特任助教など。08年、物質・材料研究機構科学情報室主任エンジニア。
10年より、神奈川工科大学情報情報学部情報工学科准教授。

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