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【オピニオン】世の中で最も求められているスキルを、研究職の人たちは潜在的に身につけている 経済産業省 技術総括審議官 谷 明人 第6回

【オピニオン】世の中で最も求められているスキルを、研究職の人たちは潜在的に身につけている 経済産業省 技術総括審議官 谷 明人 第6回

テクノロジストオピニオン第6回
経済産業省 技術総括審議官  谷 明人

構成/南山武志 撮影/大平晋也

世の中で最も求められているスキルを、
研究職の人たちは潜在的に身につけている

 我々は、官民人材交流制度を活用して、大学の教員や研究者を受け入れている。管理職としてR&D政策を実際に推進してもらう、といった任務に就いていただくのだが、そうした人を見ていてあらためて感じるのは、研究職の方々の能力の高さである。私がここでいう能力は、研究そのものではなく、それ以外の様々な分野で活躍できる力、その可能性を指している。

 例えば、博士号を取得するためには、自分自身でテーマを決めて仮説を立て、それを検証しながら、再現可能性のあるストーリーを組み立てなければならない。既存概念にはない新たな何かを創り出さないと、博士論文とは認められないだろう。科学的な知識はもちろんだが、発想の仕方とか、ある事象をとことん追求していく素養だとかが、その過程で養成されるわけである。考えてみると、研究者のほかにそのようなトレーニングを積める職種はほとんどない。

 名刺に「Dr.」という肩書を記した人が、国際機関などでもリスペクトされるのは、そうした素養が公に認められた人間だと認知されるからにほかならない。重要なのは、最初に述べたように、その能力は研究以外の分野にも転用が可能だということである。現代は、答えのない時代だといわれる。そんな社会の中で、独自にその答えを想定し、周囲を巻き込んで解決策を探っていく。ある意味、世の中で最も求められているスキルを、研究職の人たちは潜在的に身につけているといっていい。

 私が少し残念に思うのは、多くの研究者がそうした自らの可能性に気づいていない、という事実だ。実にもったいないことではないか。今いる世界がすべてと思い込むのではなく、視野を広げて自分のできること、やるべきことを探してほしいと思う。例えば、大学の中に限っても、職種は従来、教員と事務職員という2つに限られていた。しかし、ここにきてリサーチ・アドミニストレーターという「第3の職種」が注目されている。研究者の研究活動活性化のための環境整備などを専門に取り仕切る「研究マネジメント人材」で、そうした人の理事や副学長といったマネジメントの上層部への登用を模索する大学もあると聞く。活躍の場自体が広がりつつあることを、ぜひ認識してもらいたい。

 巷に「技術立国日本」の衰退を危惧する声は多い。それは一理あると思うけれども、逆にいえば、研究開発だけやっていれば経済成長できるのかといえば、そんなに単純な話ではない。リサーチがどんなに強くても、それがものづくりというマニュファクチャリングにつながらなければ、富は生まれないからだ。

 研究とマニュファクチャリングをどのように連関させていくのか、あるいはどんなビジネス戦略を立案するか、もう一歩進んで世の中の幸福を見据えた価値観をどのように提供していくのか――。これまで、日本があまり得意としなかったそうした提起に答えを導き出せる人材が、どんどん出てくるようになったら、将来に向けた強固なフォーメーションを確立できるはずだ。その使命の多くは、、やはり研究職の素養を持つ人たちに担ってもらわなくてはならない。

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Akito Tani
1985年、北海道大学工学部資源開発工学科卒業後、
通商産業省(現経済産業省)入省。在クウェート日本国大使館、
日本貿易振興機構ロンドンセンター次長、経済産業省石炭課長、
同省大学連携推進課長などを経て、2015年 同省技術総括審議官。
徳島県出身。
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