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【研究者の肖像Vol5-連載②】「まずは興味を持ったテーマを追いかける。」竹内昌治が語る生体材料と機械的なデバイスを組み合わせるハイブリッドの世界

その研究の目的は?意義は?それも大事だけれど、まずは興味を持ったテーマを追いかける。
面白ければ、壁は越えられるはず
東京大学 生産技術研究所 教授 博士(工学)
竹内 昌治

「竹内研」に集うのは、ここを率いる竹内昌治が専門とする工学のほか、医学、化学といった理系のみならず、芸術や経営学など多彩なバックグラウンドを有する人間たちだ。研究対象も、細胞などの生体材料と機械的なデバイスを組み合わせることで、様々な産業に役立つツールを開発しようという、まさにハイブリッドの世界である。彼らの手にかかれば、細胞は工業部品のように規格化され、”粒”にも”紐”にもなってしまう。こうしたコア技術を活用して、すでに高精度匂いセンサー、体内埋め込み型の血糖値センサーなどが生み出されている。学生時代、迷った末に機械工学系に進み、やがて生体材料と出合って新たな領域を拓いた竹内。その原点には、心が震えるような〝研究の楽しさ〟があった。

生物と機械の融合で、
今までにない機能を創造する

2000年、無事博士課程を修了した竹内は、東大生産技術研究所の講師に迎えられる。そこでたんぱく質や細胞といった生体材料に触れる機会を得たことが、研究に大きな転機をもたらすことになる。ただし、「ベースにある発想は、大学4年の頃とそんなに変わっていない」のだという。

工学の生き物へのアプローチというと、生体の機能を解明して、それに似せた人工物をつくるという流れがメインだと思います。でも、僕はまじまじと例の昆虫〝G〞を見た時に(笑)、自分の力では彼から精巧な人工物をこしらえるのは無理だと感じました。ならば、昆虫のいいところと人工物のいいところを組み合わせてみたらどうだろう、と考えたわけです。

 学生時代、そんな研究に打ち込んでいたら、ある時、下山先生が「これは機械と昆虫の〝ハイブリッド〞だね」と。当時はまだそんなにポピュラーな用語ではなかったのですが、いわれてみればまさにそのとおりです。今は研究室のロゴにも、「Think hybrid」と銘打っているんですよ。

 研究室で向き合っている〝生体〞は、生物そのものではなくDNAやたんぱく質、脂質、細胞などのいわばパーツです。研究の柱は2つあって、一つは、これら生体材料と機械を融合させたものづくり。もう一つは、そのままでは扱いにくい生体材料を機械部品のごとく使えるように加工する技術の開発です。いってみれば〝生きた部品〞づくり。そうした研究開発のために、今もMEMSが基盤技術の一つになっているのは、いうまでもありません。

 例えば細胞は、1個が10ミクロンぐらいの粒子なのですが、そのままだとぐっちゃりしているし、大きさや形にばらつきがあるし、自在にハンドリングできるような代物ではないんですね。そこで、まずそれを〝点〞〝線〞〝面〞のブロックに〝加工する〞ことを考えました。世の中のものは、すべてこの3つの要素からできていますから、これらを組み合わせることで、どんな形のものでも、例えば複雑な臓器などでも作製できるはずだと。

 最初につくった〝点〞=ビーズは、直径約0.1mmのゲルに細胞を詰めることで、規格化を図ったものです。これを鋳型に詰め込むことで、様々な形状の細胞組織をつくり出すことができるようになりました。試しにつくった人間の指は、本物そっくり。もちろん、血管や神経は通っていませんけど。

〝線〞の開発にも成功しています。細胞をコラーゲンなどとともにマイクロレベルの紐に成形した後に培養すると、細胞の詰まった「細胞ファイバー」ができたのです。そんな形状にしても、細胞の働きは失われませんでした。しかも、普通の紐と同様に巻いたり編んだりできる。すでに筋肉細胞、神経細胞、血管内皮細胞など10種類以上の〝生きた紐〞をつくることに成功しているんですよ。

生体そのものを使った部品。それは工学的な発想がなければ到達しえなかった成果といえるだろう。この技術をベースとし、細胞の膜たんぱく質を使った「匂いセンサー」や「体内埋め込み型血糖値センサー」など、実用化をにらんだツールがすでに開発された。iPS細胞といった最先端技術との〝融合〞も進む。「竹内研」の技術は、今後様々な分野で、さらに革新的なソリューションを生み出していくはずだ。

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例えば犯罪捜査や災害救助の現場で、犬の嗅覚が利用されています。でも、彼らの集中力は長くて1時間ともいわれているんですよ。だったら、犬という生体の機能と機械の長所を併せ持つデバイスはできないか?
そんな発想で考えたのが「匂いセンサー」です。

 細胞には膜たんぱく質という高感度センサーが備わっていて、光も匂いも味もここで感知しています。僕らはMEMSを使って、嗅覚に関与する膜たんぱく質を取り出し、アレイ化することに成功しました。それを使ったセンサーは、ヒトの匂いにちゃんと反応してくれました。

「血糖値センサー」は、ハイドロゲルというこんにゃくゼリーのような物質に、糖分に反応して発光する性質を持たせ、それをさっきの紐にして体に埋め込むというものです。その機能は、耳にセンサーを入れたマウスで確かめられました。糖尿病の患者さんは、1日に数回、指などに針を刺して血糖値を測っていますが、変動をきたしやすいその値を正確にモニタリングするのは、至難の業。これを使えば、24時間連続して計測することができるのです。

 さらに、僕らは治療にも挑戦しています。糖尿病は、すい臓でつくられるインスリンの分泌が少なくなってしまう病気です。なので、インスリンをつくるヒトiPS細胞由来の細胞を、やはり紐にして埋め込むことを考えました。血糖値が上昇した時に、弱ったすい臓の代わりにその紐がインスリンを出してくれる仕組みです。これも、動物実験で効果が確認されているんですよ。

生体のすべてをコントロールする。それが究極の夢

現在、研究室には50~60名のメンバーがいる。人数を確定できないのは、「新陳代謝が激しくて、実際の人数をちゃんと把握していない」から。専門も機械工学、材料、医学、生化学、生物……さらには女性メディアアーティスト、経営学と、多彩というしかない。

うちの研究室は、典型的な異分野融合型です。研究の性格上、分野を飛び越えたコラボレーションが不可欠ですし、そもそも〝いろんな人〟がいたほうが、斬新なアイデアを生み、個性的な研究に結びつきやすいと思うのです。〝芸術家〟がなぜいるのか、ですか?我々も税金をもらって研究している以上、成果はきちんと社会に還元し、アピールもしていく必要があります。いかにも学術文書ではなく、わかりやすく面白く。彼女には、そんなところに手を貸してもらっているのです。

こういう規模の、しかもハイブリッド型の組織が総合力を発揮するうえで重要なのは、ヒエラルキーをつくらないことだと僕は思っています。実際に研究をやる人、それを補佐する人間、スタンスはいろいろあるけれど、アイデアはみんなが対等に出せる。そんなフラットな組織でなければいけない。幸いみんなそういうところを理解してくれていて、楽しく前向きに、テーマに取り組んでいます。

15年4月には、株式会社セルファイバというベンチャーを立ち上げました。さっきの「細胞ファイバー技術」の実用化を展望したアクションです。

この技術が紹介されるや、いろんな企業からコンタクトをいただきました。ただ、どこか1社にライセンス供与すれば、限られたところでしか使われなくなってしまう。僕らとしては、医療に限らず化粧品、食品など、幅広い分野に応用できる技術だと考えているわけです。そう考えると、自前で会社をつくるのがベターだろうと。セルファイバが他社と共同開発を行ったり、あるいは自社開発の材料を販売したりという展開を考えています。

もちろん、実用化を狙う技術はほかにもたくさんあります。外に出せるところまで来たら、ツールごとに別々のベンチャーをつくっていこうと構想しているんですよ。経営学の専門家は、この部分をフォローしてもらうために来てもらったのです。

「何のための研究か?」。今の竹内に、そんな質問をぶつける人間はいないだろう。しかし、「そうした批判を恐れるべきではない」と、若き日に悩み抜いた男は言う。取材中何度も繰り返したのは、「とにかく、大学4年の時にやった研究が面白くて」という一言だ。

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結局、あの昆虫の脚が動いた感動が忘れられず、この職業を続けてきたようなものなんですよ(笑)。若い人たちには、そういう単純な好奇心を大事にしてほしいですね。最初から完全なストーリーを決めてから研究を開始するのではなく、自分が面白いと思ったら、まずは手を動かしてやってみることです。目的や意義は、成果が出てから後付けで考えるというのも一つの方法。そういう考えが許される現場であってもらいたいと思うのです。

繰り返しになりますが、生体の機能をすべて人工物に置き換えるのが難しいのなら、生体材料をそのまま使ったらどうか、というのが僕らのアプローチです。ところが、生体材料を研究すればするほど、そのすごさに気づかされるんですよ。自己修復能力はある、増殖ができる、物質をつくり出す能力を持つ……。であれば、逆に生体100%のものを我々が意のままにコントロールできたら、とても機能的なデバイスができるかもしれません。〝生体を人工物に〟ではなく、人工物にはできなかったことを、生体にやってもらうのです。名付けて「いきものづくり」プロジェクト(笑)。これに結果を出すのが、目下の夢です。
※本文中敬称略

Profile

biographies01_3東京大学 生産技術研究所 教授 博士(工学)
竹内 昌治

1972年9月17日 東京都練馬区生まれ
1995年3月 東京大学工学部 産業機械工学科卒業
2000年3月 東京大学大学院 工学系研究科機械情報 工学専攻博士課程修了
2001年9月 東京大学生産技術研究所 講師
2003年5月 東京大学生産技術研究所 助教授
2004年3月 ハーバード大学化学科 客員研究員(兼務)
2008年4月 バイオナノ融合 プロセス連携センター センター長(兼務)
2009年4月 KAST人工細胞膜システム プロジェクトリーダー(兼務)
2010年10月 ERATO「バイオ融合」 プロジェクト 研究総括(兼務)
2014年4月 東京大学生産技術研究所 教授

主な受賞

文部科学大臣表彰若手科学者賞(2008年)
第6回日本学術振興会賞(2009年)
米国化学会分析化学若手科学者賞(2015年)など

2016年4月、研究室のメンバーと。工学者に加えて、医学、化学、生物学、経営学、芸術など、多様なバックグラウンドを持つ本格的な異分野融合研究室に成長している。前列右端が竹内氏

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